「若い時の成功とは、人生最大の失敗をすることである」
こんな言葉があるとすれば、俺にとっては20代のエクシア合同会社への出資こそが最大の失敗だった。
会社の実態はポンジスキームで、大金が戻ってくることはなかった。
今回は俺のエクシア合同会社への出資経緯、どのように騙されたのかをまとめてみた。
この記事を読んで、少しでも今後の教訓にしてくれたら嬉しい。
ちなみに、この会社は既に倒産しており、存在はしていない。
社員や代表を名乗っていた人物たちは、いまもどこかで悠々自適に暮らしていることだろう。
エクシアとの出会い
副業が上手くいかない
もともと俺は副業をいくつか行っていた。
当時はコロナ渦だったこともあり、一つの収入源というのは危ないと思ったからだ。
- 転売(革靴をメルカリで転売)
- ブログ(今はデータも残っていない)
- YouTube(ゲーム実況)
- 資産運用(株)
しかし、副業はなかなか成果が出なかった。
転売は在庫のリスクを抱え、ブログは書くことに疲れ、YouTubeは編集に時間を取られ…
とにかく疲れてしまったというのがあった。
お金を稼ぐにしても、忙しくなりすぎるのは嫌だったのだ。
なんとか何もせずに稼げないかを考えた時、俺は資産運用について思い出した。
もともと株は銀行よりは利率がいいからやっていた程度だった。
稼ぐというよりは、預金代わりに使っていた形だ。
この株に回しているお金で、もっと利益を出せないかと考えたのだ。
要するに、楽して稼ごうと思ったわけだ。
この考え方が、破滅への第一歩を招くことになる。
ネットでエクシアの存在を知る
さっそく俺は利回りのいい投資先を探し始めた。
そこで見つけたのが、ヘッジファンドという投資方法だ。
機関投資家や富裕層からお金を集め、運用して利益を出すという私募ファンドである。
当時の俺は実家暮らしでお金を使う性格でもなかったために、預貯金だけは比較的あったのだ。
加えて、祖父母の生前贈与でまとまったお金も受け取っていた。
そして、当時有名だったのがエクシア合同会社と、BMキャピタルという会社だった。
俺は両社の評判をネットの記事やブログでたくさん調べた。
- エクシア体験記
- 投資ブログ
- 利回り公開チャンネル
今ではその時のウェブページはこぞってネットから消えている。
もしかしたら、予め会社が仕込んだ集客用のページだったのかもしれない。
俺は一口100万円からという参入のしやすいエクシアに投資をすることに決めた。
もし、この時にBMキャピタルを選んでおけば、今頃人生は変わっていたのかもしれない。
ただ、それは結果論であり、未来のことなどは誰にも分らない。
その後、担当者とウェブ面談をしたあと、俺は200万円をエクシアの口座に振り込んだ。
信頼感を高める演出
出資金評価額通知メール
運用を開始した翌月末、さっそくエクシアから成果のメールが届いた。
○○様
EXIA ID:1234567
2021年7月を基準とした評価額につき、以下の通りお知らせします。
契約日 | 2021/6/30 |
2021年7月返戻率 | + 1.60 % |
出資金額 | 2,000,000 円 |
社員権評価額 | 2,032,100 円 |
何もしていないのに、3万2100円を稼ぐことができたしまったのだ。
そして、同じことが翌月、翌々月と繰り返された。
「もし出資金が5倍だったら、利益も5倍になるのか…」
味を占めた俺はなんと追加で800万円、合計で1000万円をエクシアに出資してしまった。
今だから言えるが、データの数字と実際に利益が出ていることには何の関係性もない。
なぜなら、実際に自分がそのお金を見ているわけではないからである。
つまり、利益率などはいくらでもごまかせるのである。
しかし、あまりの興奮で、俺はそんな可能性などは微塵も考えなかった。
「このままエクシアに投資を続ければ、30代で億万長者になれる」
本気でこんなことを考えていた。
レセプションパーティー
六本木の住友不動産グランドタワー15階で行われたレセプションパーティーも忘れてはいけない。
表向きの開催理由は、出資者同士で交流をはかるというものである。
ちなみに、立食とお酒の飲み放題もついていた。
俺はこのパーティーにも二回参加している。
確かに会場はすごかった。
巨大なオフィスビルのフロアをまるごと使い、数々の豪華な内装にも圧倒された。
- 広々としたエントランスと受付
- 見るからに高額そうなインテリア
- あちこちに表示されたモニターには時価総額を示すチャートやグラフ
- 商談が行われるであろうガラス張りの会議室が多く点在
出資者はお年寄りが目立ったが、若い人、中には子どもと一緒に来ている人もいた。
すべては投資家を安心させるための演出だったのか、今では真相はわからない。
また、エクシアの社員を自称する人たちも会場にはいた。
名刺にはIR部、パブリックイノベーション部などよくわからない横文字が使われていた。
このパーティーの目的は、会社の活動場所を見てもらうことで、信頼感を上げることである。
だが、モノが存在することと、実際に使われていることは全く関係が無い。
モノ、人、小道具も、全ては演出だったのだろう。
金の力で信用を買う
エクシアは知名度と信頼を上げるために、広告にも莫大なお金を投入していた。
- 山手線の車内広告
- 渋谷や新宿などに巨大な看板
- 関西コレクションのスポンサー
- 書籍の発行
- 著名弁護士を公式サイトに起用
信頼は金さえあれば、いくらでも作り出すことができる。
集めた金で信頼を作り、その信頼でまた金を集めるのだ。
詐欺師でも、金さえ払えば本も発行することができる。
俺もメルカリでこの本を購入し、読んだのを覚えている。
中身はよくわからない言葉が羅列してあるだけだったが。
ただ、当時は「やっぱり経営者は一般人とは考え方が違う」と興奮していた。
この菊池翔なる人物も、本当に実在するのか今ではわからない。
仮にいたとしても、本人は今も日本で悠々自適に暮らしていることだろう。
エクシアの終わり
最後の撤退チャンス
俺は一度だけエクシアから出金をしている。
さすがにエクシア一本に全額を使うのは危ないと考えたからだ。
そこで出資金1000万円のうち、600万円を引き出そうとした。
しかし、俺は二回目のレセプションパーティーで軸がぶれてしまった。
あろうことか、パーティーでの事業展開のプレゼンを聞いて、600万円の引き出しを、200万円に減額してしまったのだ。
人の心は簡単にブレてしまう。
そして、これがエクシアから出金する最後のチャンスとなってしまった。
もちろん、当時はそんなことは微塵も思わなかったのだが。
出金不可能
雲行きは徐々に怪しくなり始めた。
毎月の評価額通知メールはこれど、一向に出金はできないのである。
そして、悲観的なメールが届き始める。
- 裁判で訴訟案件になっている
- 多くの優秀なトレーダーが風評被害で退社してしまった
- SNSで根拠のないデマを広げられている
つまり、運用ができないので、出金はできませんというわけだ。
もっとも、これも最初から計画されていたことだ。
エクシアへの信頼はあっという間に崩れ、出資者の多くはこの時点で諦めたことだろう。
そして、忘れかけていた頃に、エクシア倒産のメールが届いた。
騙された後
被害額850億円
エクシア詐欺のすごさは、その被害額の大きさである。
被害者は約9000名、資産にして850億のお金が詐欺師に騙されたのであった。
単純計算で、一人当たり944万、ほぼ1000万の出資をしていたことになる。
俺は途中で200万は出金したので、実質的には800万円の被害を受けたことになる。
それでも、平均で見ればまだマシなほうだったというわけだ。
そして、詐欺師たちは何のお咎めも受けはしない。
社員たちは身をくらまし、代表を名乗る経営者は、今も日本で悠々自適に暮らしているという。
これが脱税をしていた等であれば、国も動くかもしれない。
だが、エクシアの実態はあくまでも投資詐欺なので、誰も動きはしない。
だますつもりはなく、事業に本当に失敗したと言われれば、それまでだからである。
辛いかもしれないが、これが世の中の現実である。
弁護士の着手金詐欺
被害者が救済を頼めるのは弁護士である。
ただ、俺はこれには参加していない。
着手金詐欺という実質合法詐欺のリスクがあったからだ。
当初は俺も何とかお金を引き出せないかと模索したことはあった。
するとネットには「エクシア被害者の会」や「集団訴訟」といったワードが出てきた。
一人の力は弱くても、みんなで協力すればというやつである。
だが、ふと考えたことがある。
俺の目的はお金を取り返すことであって、裁判で勝つことではない。
しかし、弁護士に頼む以上、安くはない着手金は必要になる。
加えて、資料準備や打ち合わせ等でも時間は取られる。
エクシアの代表は、どう考えても850億円ものお金は所持していない。
実際、案件を扱っている弁護事務所に問い合わせもした。
案の定、「裁判に勝つこととお金が返ってくることは全くの別問題」と明確な回答を受け取った。
つまり、着手金で無駄にお金を払うことになってしまうというわけだ。
これが俗にいう、着手金詐欺である。
弁護士も慈善事業ではなく、ビジネスでやっているので当然のことなのだが。
こうなると、完全に恨みを晴らすための無駄金になる。
たとえそこに正義があろうが、お金と時間を捨てることに変わりはない。
なので、結局俺は取り返すのを諦めた。
お金を使わない性格が俺を救う
800万円も騙されておきながら、諦めるというのは異常かもしれない。
普通の人間であれば、藁にもすがる思いで救済手段を探すだろう。
だが、俺はもともとあまりお金を使わない性格だった。
今回の投資も余剰資金でやっていただけに過ぎない。
- 車はもたない
- 旅行には行かない
- 彼女はいない
- 借金もない
確かに騙されたことは悔しいし、詐欺師は許せない。
中には自殺した人や、同じく詐欺師になってしまった人もいるかもしれない。
エクシアの社員や代表が捕まることは、おそらくないだろう。
投資詐欺ほど因果関係の立証が難しい罪は存在しないからだ。
投資はたとえ詐欺だったとしても、「自己責任」という都合のいい言葉まである。
しかし、恨んだところで何も解決しないのも事実である。
なので、俺はエクシアに文句を言うくらいなら、新しいことに挑戦した方がはるかにいいと考えた。
学んだこと
冷静さを失うのが一番怖い
詐欺師が怖いのは、相手の冷静な判断力を奪うことに長けていることだ。
詐欺というのは、冷静な状態であれば十分に勉強した人は引っかかりにくい。
この記事を読んでいるあなたも、まさかそんな手法に騙されるわけがないと思っているはずだ。
もちろん、騙されることは無いだろう。
だが、それは冷静な状態に限った話である。
- ワクワクや期待といった興奮状態
- 恋愛感情
- 暴力や犯罪等の危機感
- 警察や裁判所といった公権力
これらの条件で、人は冷静さを失ってしまうことがある。
エクシアの場合、上で解説した広告やパーティー等の数々の演出が、俺を鈍らせてしまった。
その結果、本来ではあり得ないような額の金を集めることに成功したのだ。
信頼や実績は、金さえあればいくらでも演出することはできる。
厳しいかもしれないが、お金が絡む以上、常に疑う心を持つことは大切だ。
それが結果として、自己防衛につながるからだ。
人は自分の過ちは認めたくない生き物
誤った道に進んでも、立ち止まって考えることができれば、まだ救いはある。
だが、人間は自分で自分の過ちを認めることが最も難しい。
本当は間違っているとわかっていても、自分の中で認めたくないのだ。
そして、自分にとって都合のいい理由ばかりを探すようになる。
俺もエクシアに投資していた際、周りの人間からさんざん注意を受けた。
親しい友人からも、せめて出資金の額を減らした方がいいとも助言を受けていた。
だが、あろうことは俺はそれらの意見をほぼ無視したのである。
- 俺の投資先が倒産するわけない
- 出資していない人は何とでもいえる
- いつの時代も、人気者は批判される
- 有名になってからでは遅すぎる
結果的には周りの人間が正しく、過ちを認めた時には既に手遅れだった。
楽な道に逃げるな
そもそも俺は大金が必要なわけでは無かった。
副業に興味があったとはいえ、それは生活が厳しかったからではない。
万が一の備えとして、収入源は複数あったほうがいいと考えていただけだ。
それがいつの間にか楽して稼げる方法に変わっていたのである。
でなければ、ヘッジファドというハイリスクハイリターンな投資先に目を付けることもなかった。
だいたい、楽をして稼ぐというのは競争社会の原理ではなりたたない。
楽をして稼げるなら、参入者は増える一方である。
だが、担い手が増えれば、その分一人一人の報酬の取り分は下がってしまう。
それでは稼ぎとしてなりたたない。
本来、苦労して身に着けた方法というのは、誰にも教えはしない。
それが赤の他人であるのであれば、なおさらである。
まとめ
俺が人生でやらかした最大の失敗であるエクシア合同会社の体験談を語ってみた。
「若い時の成功とは、人生最大の失敗をすることである」
この言葉には、足りない部分がある。
失敗を放置せず、そこから学び、次の行動につなげるということだ。
それが無ければ、未来の成功にはつながらない。
エクシアに限らず、人生で騙される可能性は誰にでもある。
その際は、冷静さを失わないように、一度立ち止まって考えてみてほしい。